死闘オブ死闘。順位戦A級7回戦森内藤井戦。

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千日手指し直しから深夜3時過ぎの終局まで見届けてそのまま寝落ち。朝なんとか起床してから出勤帰宅した今でも真っ先に出る本局の感想は『死闘』。
千日手指し直し局は藤井投了まで246手、先の千日手局57手を含めると計303手。終局時間3時42分。両者持ち時間を使い切って1分将棋がはじまってから何度攻守が入れ替わったかわからない。殺るか殺られるか。結果的に9九の香以外すべての駒が利いた/使われた大全面戦争のクライマックスは玉同士が互いの右と左に睨み合いながら駒で切り結ぶ白兵戦。(手の)善悪を超えた戦い、と中継記者が記したのはまったくそのとおり。たしかに後で冷静に検討すれば当然手の良し悪しは出てくる。しかし心身そして持ち時間すべてを消耗した二人の棋士の、にもかかわらずのまったく譲らない全身全霊の盤上の殴り合いをリアルタイムで観戦した身から言わせていただければ、そこには、…うまく言葉にできているかわからないが、『神々しい泥臭さ』というか、そういうものがあった。そう感じた。昔、相撲が神事だったという話が一瞬わかるような気すらした。常人常力を超えたすごいモノ同士がただただ死力を尽くして戦うこと、そういう行為が行われること自体、それをこうして目の当たりに出来ること自体、何かの奇跡というか神聖なものというか、そういう気になる。大げさか。すみません。
それと俺はずっと藤井先生を応援していたが、それを負かした対局者の森内先生にもなんというか、感謝の言葉を言わざるを得ない気分なのだ。というか言わざるを得ないなんてもったいぶった言い方ではなく、言わせてくださいお願いします、だ。
森内先生、藤井先生、名局をありがとうございました。中継担当の牛蒡記者、記録係の森村三段、関係者の皆様、twitter上で一緒に観戦した皆様にもありがとうございました。そしてたいへんたいへんおつかれさまでした。


…さて、ここまで書いて若干冷静になったので星取り表を眺めてみると、ぎゃあああああああである。藤井先生、現在2勝5敗でA級最下位である。もともとの順位もよくないので非常にまずい。もちろん残りすべてに勝っていただくのを祈って応援するしかない。


千日手成立局は角交換型四間飛車で、新型藤井将棋では見慣れた戦型の一つ。角交換振り飛車のもともとの思想の一つが「後手番だから千日手大歓迎」だったりするので、藤井先生にとってこの千日手成立はもちろん歓迎だったと思う。いや、エース戦法を先手番の藤井流矢倉に絞って、後手番のときは極力千日手に誘導して「俺はこれから先手番だけで勝つ!」とかじゃないとは思いますが。
で指し直し局は“矢倉も指せる振り飛車党”対“矢倉の本命本格派(←これは今考えた)”の組み合わせで将棋ファンの大方の予想通り、相矢倉。
序〜中盤入り口は先手が美しい菱矢倉から5筋に飛車に振り直して中央を手厚く攻める流れ。先手の大駒がやや窮屈な形になってから後手がやれるかと思われたが、端の一歩を手にしてからの攻めでペースは先手。
しかしさすがの、としか言いようがないさすがの“鉄板流”永世名人資格者森内九段のしぶとい受け。攻めに使いたい持ち駒をどんどん受けに投入して分厚い壁を構築、先手の攻撃を弾く弾く。
気がつけば攻守交替、思わず先手玉が上部に逃げ出す展開に…
で、それでも藤井勝勢とか逆転だとか、と に か く 何度も攻守形勢が逆転しまくったんですよ!!!
中盤の頃に歩のナイフを突きつけられてもう取られるばかりと思っていた3七桂とか香取りのためにそっぽに行ってた9二銀とか最後全部活躍するという感動の流れもあったり、藤井玉が入玉するという非常に珍しいものも見ることができてしまったり(そのすぐあとに負けたんだけど)、藤井サイドだけでも見所満載で、そのうえ森内先生の驚異的な粘り粘り粘り受け受け受けからの反撃反撃反撃もすばらしく、いや書いててもうまた疲れてきた。すごくて。


ただ、敗れたけれど、この藤井先生はほんとうに強いと思うんですよ。こんな将棋をずっと続けられるなら、期待できると思うんですよ。いろいろなことを。もちろん内容以上に、勝たねば何にもならんのですけれど。それでもですよ。


…次回も応援します。ありがとうございました。


おわる。