おお、テレビに羽生善治九段が出てる!!  …ん?

ご存知の方もいるかもしれませんが、うちにはテレビがありません。
ので、今日のテレビ東京「世界を変える100人の日本人」は携帯電話のワンセグ放送で見ました。


というのは、この番組のなかで故・村山聖九段が取り上げられるという情報を、twitterのタイムラインで知ったからです。
名作『聖の青春』を読んで以来、何かの折に思い出す人物の一人です。


視聴開始。
携帯の小さな画面のなかで、大人顔負けの活躍をする日本人の子供たちが紹介されていきます。


途中「群馬県沼田市にスーパースターがいる」という前振りで紹介された子がおりましたが、わたくしはこの前振りを見た瞬間
群馬県沼田市といったらもちろん“現代四間飛車の第一人者”“藤井システム考案者”“竜王三連覇”“序盤の天才”“振り飛車党元総帥”“ガジガジ流”“鰻屋”こと、皆さんご存知 藤 井 猛 九 段 だろうな。わかってるなテレビ東京
と思ったんですが全然そんなことはなく、レーシングカートの世界選手権で日本人初(そしてアジア人初)で優勝した天才中学生のお話でした。


てかすげえなシューマッハより若い歳で優勝とか。あとお母さん片山右京さんのファンだったんだ。僕は中島悟です。


ともかく、しばらく見てると、ようやく村山聖九段のお話に。
全部で10分くらいでしょうか。時間が時間なのでいろいろ端折りまくっています。


モリノブ先生(森信雄七段。村山の師匠)の存在そのものに触れられてないのは『聖の青春』の読者としては不満ありまくりです。ただし、想定されうる端折られ方ではあります。


羽生さんも村山さんの思い出を語る役で出てました。
この話の入り口が「羽生世代」の話題であり、その羽生が恐れた男として語られるのが村山聖なのだから、流れとして当然といえば当然なのですが、


……画面に何か違和感がある。


すぐにわかりました。
画面に出てる名前のところです。
番組をご覧になった将棋ファンの方は一斉に画面に突っ込んだことでしょう。


羽生善治 九段


いつの未来から来た羽生だよコレは。
だいたいどれだけ衰えたら九段になんだよこの人。


……などと無粋なツッコミをついしてしまうのは、多くの人がご存知の通り、この人がただの九段(いや、九段だって立派な位なのですが)ではなく、初タイトル獲得以来、何らかのタイトルを保持し続けていたがために、現在までずーっと段位で呼ばれることのなかった人だからです。


これは、おそらくは番組の構成上の都合でしょう。
というのは、村山聖の死後、生前は八段だった彼に九段が贈られたことについて、「九段」というものを「将棋で最高の位」と番組は説明したからです。
つまり、村山聖は、死後にではあるがあの羽生善治に並ぶ位である九段を得るような偉大な棋士だったのだ、と。


そうして番組は綺麗に話を締めたのですが、さすがに無茶すぎだろテレ東。


まあ、「位」であって「タイトル」じゃないから……という言い訳もできます。


しかし、村山の目標は名人を倒すことだったし、そして、「将棋はつらいから、名人になって早く辞めたい」という意志を表したこともありました。
だから村山にとって(そして一般的に言って)棋士の最高の肩書きは「名人」です。(日本将棋連盟の序列的には「竜王」もなんですが、ここは流れ的に「名人」でお許しを)


村山聖は、結末だけ言えば、その名人への志半ば道半ばで倒れた棋士です。
タイトル戦挑戦一回、一般棋戦優勝二回、順位戦A級八段、それが彼の実績でした。


であれば、彼の日本将棋連盟としても、やはり与えられるのは規定通りの贈九段がせいぜいであって、どうがんばっても贈名人ではないのです。


それでいいじゃないか、と俺は思うのです。


いや「そうそい過程が大事だよね」とか、「何言ってんだ人生は結果がすべてだよ」とか、そういうことじゃなく、そんな次元じゃなく、なんというか、……壮絶に濃密に生きた彼の人生そのものを知れれば、我々生きてる人間としては、もうそれでいいじゃないか、というか。


だから、綺麗に締めるために、嘘をつくことはないじゃないか。テレビ東京
いいんだよそういう小細工は。
それよりモリノブ先生と金太郎(モリノブ先生のペットの鳥)出してください。


なんて感じの感想をつらつら書いてみましたがまとまらずおわる。





ところで、ここまで書いて思いなおしたんですが
「嘘ってほどじゃねーよな。てか知らない人向けに10分で手っ取り早く番組作ったらまあこんな感じだよな」
という気もしてきました。
まあせっかくなので残しておきます。


あと、そもそも俺の村山聖九段のイメージも『聖の青春』によるもののみなので、俺も俺ですさまじく美化している可能性があるよなあと思って……だんだん書き直したくなってきたけど、もう、眠いので、これでいいです。


聖の青春 (講談社文庫)

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