民間業者は通信の秘密を守れない?

asahi.com:メール便で「信書」78万通 総務省、ヤマト運輸を指導 - 社会asahi.com

 ヤマト運輸が昨年夏、郵便法で郵便事業会社だけに扱いが許されている「信書」約78万通をメール便で届けたとして、総務省は22日、ヤマト運輸に再発防止を求める文書を送り、行政指導した。
(中略)
総務省は「特定の受取人に差出人の意思または事実を伝える」という信書の定義にあてはまると判断した。
(中略)
 郵便法は、通信の秘密の保護と全国一律サービスの維持を理由に、信書の扱いを制限している。

信書のガイドライン日本郵便)によれば、信書の扱いについては

郵便法(昭和22年法律第165号)及び民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号。以下「信書便法」といいます。)の規定により、日本郵政公社(郵便局)及び信書便法の許可を受けた民間事業者のみが行えることとされております。

だそうです。
これを読む限り、郵政公社だけでなく「信書便法の許可を受けた民間事業者」も信書を扱えるようです。ニュース記事のほうでは「郵便事業会社だけに扱いが許されている…」と書いてますが、郵便事業会社でぐぐる日本郵政公社がズバリそれだ!みたいなヒットの仕方をするので注意が必要です。
で、その信書便法の許可を受けた民間事業者のリスト平成19年度版がこちら。たしかにヤマト運輸の名前が入ってません。意外なことですが、法律は法律だからしょうがない。
ただ、はてなブックマーク界隈でも少し突っ込まれてますが、ヤマト運輸が「通信の秘密の保護」と「全国一律サービスの維持」ができないかといえばそういうわけではない気がします。少なくとも後者は、ヤマト運輸の規模を考えれば、すでに実現できています。
また前者についても、むしろ民間業者のほうが秘密の保護を可能にするのではないかと思っています。理由は簡単で、民間業者は信書の内容について興味が無いからです*1
ここで、企業はモラルハザードのリスクを常に孕むから危険だ、という反論は成り立ちません。モラルハザードについては、郵便局のほうが、郵便物を配達バイトが溜め込んでいたなどの事件をたくさん起こしています。また、配達物の現在状況が追跡できるようになったため、秘密の開封をする時間も場所も、システム的に存在しないといっていいはずです。
そんなわけで、信書の配達を許可制にしていたこと自体には、ちょっとケチがつくんじゃないかなあと思う次第です。超・素人考えですが。

*1:ついでにいうと、近代郵便制度の黎明期にあっては、郵便はこれを運営する国家によって積極的に開封され、内容を閲覧されていました。当時、郵便とは国家体制を維持するための道具であって、国民の秘密を握るのは当然と考えられていたからです。信書の秘密の保護が実現されたのはフランス革命以降です。…ところで、この後分裂したドイツ諸邦にあって、帝国郵便から民営に移行したタクシス郵便がドイツ由来ではなくイタリア系であったこと、国営でなく民間業者であることで非難されたことがありました。このとき、タクシス郵便を擁護する国法学者は、タクシス郵便が民営郵便事業者となったことで、もはや手紙の閲覧には興味が無く安全であること、そもそもドイツの郵便制度は民間人であるタクシス家によって良く運営されてきたものであることを説きました。…また長い注だなあ。元ネタはこちら→ハプスブルク帝国の情報メディア革命―近代郵便制度の誕生 (集英社新書)