A級の攻め。とA級の粘り。順位戦A級8回戦、藤井九段対丸山九段。

先に言います。
藤井先生、勝利おめでとうございます!!!


中継サイト(有料)http://www.meijinsen.jp/


以下だらだら書き。
A級順位戦全9回のうちラス前の本局は、他のA級棋士も今回の勝ち負け次第では挑戦降級がぞろぞろ確定しようという大事な大事な一戦。
藤井九段は前局までの成績と今期順位の関係によってすでに自力残留の目が無く、本局と次局すべて勝利して、かつ他棋士の敗北を待たねばならないという大逆境。
それも実力といえばそうだが、近年とにかくいろんな意味でドラマティックな戦いを演じている藤井先生なので、アヴァランチ仙台*1の名台詞よろしく『逆境こそが俺たちの勝ちパターン!』であってほしい。
…まあこの台詞、ファン的には「毎度それは勘弁してくれ…心臓に悪いから…」だけどね…。


で本局。
先手藤井。藤井丸山の戦いなら戦型は藤井が主導するだろうと誰しも予想するところ、やっぱりそうなった。
先日の自分のブログでは『登板はエース戦法の藤井流矢倉が鉄板だと思うが、他の可能性も楽しみにする。』と書いたものの、蓋を開けてみたら四間飛車。うおおお。しかも即・角交換の角道オープン型四間飛車。うおおおおお。
最近の藤井先手番エース戦法といえば矢倉だったが、たしかにこの戦法もけっこう使っていて、そしてそれなりの成績を収めている。はず。いや印象ですけど。それをこの一番にぶつけてきた。
前局森内九段戦のときから角交換型振り飛車の連採で、なんだかんだでやっぱり戦法の選択肢のベースに振り飛車があり、先手番のみ矢倉を指しているという、自称通りの『矢倉も指せる振り飛車党』藤井猛だ。


その角交換は先手側から。いつも自ら積極的に角交換するのは、それによって局面を限定し自分の土俵にもっていこうとする藤井九段らしい指し方。たぶん。


先手は美濃を完成させ、後手は左銀を前線に繰り出して押さえ込みに向かう。
先手飛車先一歩交換のあと▲7八金は△8六歩に備えた手だが、コメントにもあったとおり美濃を使うなら5八金のほうが振り飛車党的にはしっくりする。
で、どうするのかなあと思っていたら、これがやがて6七〜5七〜4七と動いて、ちゃんと高美濃の金として定位置に収まるのだ。しかも5五の後手銀を追い払って。


そして大駒交換が数回あり、気がついてみると先手陣に金が三枚ある。一時は桂馬で両取りをかけられたものの、まんまと二枚とも無事に生還し、しかもその桂すらもタダで取れた。
いまや縦に4七・4八・4九に金が三枚、これを3八の銀が支えている。元は高美濃囲いなのだが、目立つのはとにかく金三枚の壁。圧巻。


棋譜コメント解説で藤井優勢を語る言葉がちらちらと出てきた。
ファン的には嬉しいが、藤井戦は毎回毎回「持ち上げて落とす」な流れを見ているので、どうも素直にうひょーといえない。いかん。もっとピュアな気持ちを持ちたい。


ここで後手丸山九段の粘りが出た。
竜引きで成大駒をすべて自陣に戻し、左辺からの攻めは何が何でも受け止めるぞという姿勢。後手玉も3筋から5〜6〜7筋へと逃げる筋が残されており、俺のような低級なら見事に寄せ損なって逃げられてしまうところ。「いや低級の意見なんか知らんがな」と思うでしょう、でも言わせてください、竜と馬に守られた玉とかうんざりです…!


そこで先手が端攻めに転じたのが、振り飛車党なら当然なのかもだが参考になった。手に困ったら四隅を見ろ、今の攻め筋が駄目なら端を攻めろ、と、何かの折に見るアドバイスだが、実際やっているのを見るとやっぱり効いている。というか激痛。


端を食い破り、とにかく緩まず確実に迫る藤井の攻め。一時しのぎ切ったとしてもなお絶望的な先手の陣形をわかりながら、にもかかわらずの丸山の執念の守り。
ちなみに、同じ日に行われていた久保木村戦も大劣勢の久保が文字通り不屈の粘りを見せて木村の攻めを耐えようとしており、観戦していて「A級棋士の粘りとはかくなるものか」と感じ入ったりもした。
…ちょっとかっこよく言い過ぎたけど、いや、しかし本当にすごいなと思ったのです。


ところで中継当時、俺は藤井勝勢のコメントがつきはじめたあたりで半寝落ちした。
痛恨だが、眠気と興奮で混乱している頭の中で翌日の仕事との天秤にかけて、ここは藤井先生を信じて寝ることにしようと思ったのだ。
俺のように自己管理能力の低く仕事もできない(この二つはだいたいイコールなことが多いけど)人間が、それでもこれからずっと生きて将棋を楽しもうとするなら、身の丈の生活をまずしっかりすることであって、そのためにはこういう決断も大事なのだ。
…と、自分に言い聞かせているが、本当は本当に最後まで見ていたかった。うぐぐぐぐ。


そして翌日、昼休みに昨日の残りの棋譜を見て、藤井先生の勝利を確認した。
先手の堅陣は攻め込まれたが、しかし逃げ出した先手玉の上部は広く、九筋にに追い詰められた後手玉の前には大量のと金。逆転の余地なく先手の圧勝。
モニタの前でガッツポーズ。


しかし、丸山先生の粘りも最後まですごかった。
終盤はずっと敗勢だったのがわかりながら、投了までまったく下駄を預ける気配はなかった。深夜まで戦い続けて、心身消耗して、もうほとんど負けだとわかっていながら、それでも粘って、そのほとんど負けの中での勝ちを待つのは、つらいどころではないだろうと素人は思う。前回の森内九段の粘りもそうだった。彼の場合は勝った。実際そういうことがあるから丸山九段も投げられないのだと、一応合理的な解釈をしてみるが、それにしてもすさまじい。


ともあれ、
藤井先生、丸山先生、おつかれさまでした。
藤井先生、改めて勝利おめでとうございます。
次局も応援します。残留に必要な条件はいろいろありますが、とにかく、まずは一つの勝利を!




だらだらすぎて自分で書いててちょっとひどい文章だが、まずはうpする。後で直す。

*1:名作サッカー漫画『オレンジ(→Orange 第1巻 (少年チャンピオン・コミックス))』に登場するチームの一つ。F2リーグを代表する強豪ながら、昇格のチャンスに恵まれずにいた