第58期王座戦第3局を見た。

公式中継サイトはこちら
http://live.shogi.or.jp/ouza/


観戦を終えてぐったりしている。
が、日記は何か書きたい。
が、どこからどう書いたものかわからないので、終局直後の写真を見た感想から書く。
こちら。
http://kifulog.shogi.or.jp/ouza/2010/09/post-bb10-1.html

22時すぎ。藤井九段投了の確認を待って、報道陣が対局室へなだれ込む。両対局者とも疲労の色をにじませている。すぐに主催者によるインタビューが行われ、羽生王座、藤井九段とも小さな声で搾り出すように答えていた。

敗れた藤井九段だけでなく、勝った羽生王座が険しい顔をしているのは将棋の常だ。
嬉しさを味わう前に、厳しい戦いで蓄積した疲労が、どっと肉体と精神に押し寄せてくる。
あるいは、対局中に張り詰めた意識が、顔にべったりと張り付いて、なかなかはがれない。
…といったところなんだろうと、いつも彼らの表情を見ながら思う。


それでも、勝者である羽生王座の場合は、勝利の喜びや、勝者としての誇りや責任が、いずれ彼の体を持ち上げ、その胸を張らせてくれるだろう。
しかし、敗者の藤井九段の場合は、そんな素敵な杖はない。疲労と敗北で打ちのめされた心と体を、自分の力で、また持ち上げなければならない。


べつに、将棋に限った話ではなく、失敗したり、敗北したりしたとき、折れた体と心を支えてくれる人たちはいるにせよ、その失敗や敗北を取り返すときは、結局、自分の力でするしかない。


ただ、こういう場面では、いつも端的に、ああ、そういうことなんだよな、と何度も、改めて、思い知らされる。


ええと。


今回の王座戦で、羽生王座と藤井九段の間の距離は少なくこれだけある、と、よくよく思い知らされた。


昔からの将棋ファンにとっては、10年前までに竜王や王座を競っていた頃に比べて、最近の対局成績は羽生の圧勝であり、今回の藤井負けは、数字の上では別に目新しい話ではなかったかもしれない。


しかし、少なくとも「王座に挑戦するほどには復活してきた今の藤井」と「昔と変わらずというか下手するとそれ以上に強い今の羽生」との間の実力差がどれほどのものか、という点については、今回これではじめてわかったことではないだろうか。


それで、藤井先生がこれからどうなるかというと、この彼我の実力差を埋めるために(「追いつき追い越せ」なんて誰も気安く言えるわけが無い)、また努力を続けるだけだろう。
勝率が低迷していた間も、ずっと自分の次の将棋を模索していた人なんだから、ここまで来て「やっぱ俺ダメかー」なんてなるわけがない。
「よーし、ようやくここまで来たぞ。でも負けた。そうか、まだこれだけ足りないのか」ということでしかないのだ。


……とまあ、そういうことは、誰でも理屈の上ではそうわかるんだけど、
「これだけ積み重ねて、まだ足りないの!?
 てか、おい、まさか、俺このやり方間違ってたとかじゃねーだろーな!?」
という気持ちに対して
「ああ、まだ足りない。さあ次に行くぞ」
とは全然ならないのが人間だ。
こういう大きな負けのあと、しばらく調子を崩してしまう棋士は、たくさんいるのだ。(漫画『3月のライオン』でもそういう描写があったな)。


で、ここまで長々と書いてきて全然言いたいことが伝わらないだろうけれど、俺も何を言いたかったのかさっぱりなのだが、書きながら今、とりあえずこれだけは言いたい。


羽生王座、防衛おめでとうございます。
毎局、鬼のような強さを見せ付けられました。まったくとんでもなく高い壁だと思い知らされました。第3局の最後の寄せだけ一瞬怪しいものがあったようですが、それを踏まえても、「いまだ棋界最強は羽生だな」という思いは変わらない、そういうタイトル戦でした。


そして藤井九段、たいへんおつかれさまでした。とにかく残念です。
しかし第3局では、不安要素と見られていた後手番で、本タイトル戦で最も盛り上がる戦いを見せていただきました。今回の戦法があくまで一つの奇策なのか、いずれまた練り込まれて一つのシステムになるのか、いずれにせよ今後が楽しみです。


よし、書きたいことがわかってきたぞ。あとはこうだ。


藤井先生が一日も早く立ち上がり、再び勝ちを積み重ね、再びタイトル挑戦を果たしますように。そして今度こそタイトルを奪取しますように。
俺は、や、俺たちは、何度でも「藤井せんせー!」と応援します。


おわる。