どうぶつしょうぎ問答、ぞうさん編。

この記事のセルフ二番煎じです。
「ネタを思いついたから書いた」それ以上の何もないけれど、書き終わった今、僕の心はとても満たされていました。
…そのはずでした。
一日経って改めて自分の文章を見たら(普段からひどいとはいえ)あまりにアレなのでがんばって書き直しました。
これまでの例で考えると、あと一回くらい書き直します。


以下、本編です。

みんなも一度は考えたことあるよね?ない?な疑問。

「あのさ」
「なに?」
どうぶつしょうぎの駒に『ぞう』っているじゃん。前斜めか後ろ斜めに進むやつ」
「ああ、いるね」
「あれ、なんで前後左右には動けないんだろ? 現実の象から離れすぎだと思うんだが」
「なるほど」
「まあ、『この遊びの中ではそういうルールなんだ』と言われたらそれまでなんだけどさ」
「いや、いい疑問だ」
「そうかな」
「うん。
 お前と同じような疑問を持っている人も少なからずいると思うから、この際考えてみようか」
「おー、いいね」
「……といっても、実は、俺なりの回答はすでにあるんだけどね」
「なんと」

逆に考えるんだ。ぞうさんのスケールで考えるんだ。

「お前の疑問を再確認すると、
 『なぜぞうさん駒は斜めに進めて、前後左右には進めないのか』
 だったな」
「うん。せめて前には動けるべきだと思うんだ。普通の動物なら」
「なるほど。
 では、この図を見て欲しい。
 これは、ぞうさんの移動の一例をあらわしたものだ」
「右斜め前、左斜め前…また右斜め前、左斜め前…いわゆる千鳥みたいな動きだな。
 ……で?」
「で。この経路の間に、こうやって線を引いてみる。
 この線に注目しながらぞうさんの動き方をよく見てくれ。
 ぞうさんはどこに向かってる?」
「どこって……あ。
 前に、進んでる?」
「そう。
 この図におけるぞうさんの移動をマクロな視点で見れば、彼はちゃんと『直進』している、と言えるのではないか。
 つまり、俺の考えはこうだ。
 ぞうさんは、一見斜めに動いているが、それは我々が自分の基準で作ったマス目にそった見方に過ぎない。
 彼にしてみれば、もしかしたら、一歩前足を動かしただけなのかもしれない。
 そういうわけだから、『ぞうさんは斜めに進む』という表現はゲーム説明のための便宜上のもので、実際には前後左右にも進めるのだ。
 ……ということで、どうだろう?」

俺たちの戦いはこれからだ!

「なるほどねえ。
 ありがとう、だいたい納得した」
「……あれ、終わり?」
「うん。そりゃ、納得したし」
「いや、今の説明で納得したの? しちゃったの? マジで?」
「なんで自分で説明したことを自分で疑ってんの」
「だって、これ、話のツカミのつもりで考えたやっつけ説明だし…」
「やっつけだったのかよ! ひどいなあ。
 ……まあ、いいや。俺なりに納得できたし。
 じゃ、そろそろ帰るか(と立ち上がる)」
「待って!」
「え」
「待ってください。納得いかないでください。
 『そんなんで納得できっか!! もっとちゃんと考えろこのグズ』
 とか文句を言ってくださいお願いします」
「おまw 『グズ』とか自分で言ってほしいのか」
「あ、いやこれは言葉の勢いというか……
 とにかく、この先が本番なんだ」
「非常に嫌な予感がするんだが」
「ないです。何も。
 ただ、これではいけないと思うんです。
 たとえ親しい友の言葉であっても、他人の話をこうも簡単に真に受けるようではいけません。
 そうです、安易な科学崇拝が蔓延する今こそ、我々はデカルト以来の懐疑の精神を取り戻し、人間の営み、存在の根本を見つめなおさねばなりません。そう思いませんか?」
「ものすごい勢いで意味わかんない件。
 ……仕方ないなあ。
 聞いてやるよ。その、ツカミの先の説明っての」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「土下座やめて。ここファミレスだから」
「はい」

公式の説明文から読み取るぞうさん

「……で?」
「はい。うん。
 ま、さっきの話は5分で考えたやっつけの説明だ。あの程度で納得されちゃあ困る」
「いきなり立ち直ったな……」
「で、お前の疑問を解く本当のカギは、公式のルール説明文にある。
 その中のぞうさんの駒の説明を読んでみて」
「えーと。

たよりがいのあるぞうはナナメにすすめます。

 短いなあ。これで何がわかるんだよ」
「順を追って説明するよ。
 とりあえず、この文章には情報が二つ入っている。
 一つは『ぞうさんは頼り甲斐がある』。
 もう一つは『ぞうさんは斜めに進める』」
「うん」
「この説明文を見たとき、
 『ぞうさんは頼り甲斐がある。“だから”、ぞうさんは斜めに進める』
 という風に、意味を補完して読んだ人もいるんじゃないかと思う」
「それ俺だw
 ただ、その読み方だと、なんか意味が変なんだよな」
「というと」
「『頼り甲斐』と『斜め移動』の関係がわかんない」
「やっぱそうなるよな。俺もだよ。
 まさにその違和感こそが、今回の話のキモだ」
「そうなの?」
「そうなの。まあ、説明するより例を出したほうが早いかな。
 ちょっと、どうぶつしょうぎの初期配置を思い出して、言ってみて」
「はいはい。
 中央で互いのひよこさんが向かい合って、それぞれのひよこさんの後ろにライオンさん、それぞれのライオンさんの左右にぞうさんときりんさん」
「おk。
 では、対局開始。
 先手は、まずは向かい合ってるひよこさんを取り合うことにした。自分のひよこさんを一歩進めて、後手のひよこさんを取って、自分の持ち駒にする。
 この手は同時に、後手のライオンさんへのいきなりの王手でもある」
「w 狭いからね、この世界」
「王手なので、後手はこのひよこさんに対して何らかのアクションをとらなければいけない。
 思いつくものを言ってみて」
「んー、とりあえずこんな感じかな?
 1、ライオンさんでひよこさんを取る
 2、ライオンさんがひよこさんをよける
 3、ぞうさんがひよこさんを取る」
「いいね。ちなみに、お前ならどれを選ぶ?」
「ひよこさんをよけたら駒損が残るから、2は無しだなあ。
 だから1か3なんだけど……。
 ライオンさんが捕まると負けだから、あまり前線に出したくないんだよね。
 だから、3の『ぞうさんがひよこを取る』を選ぶよ」
「なるほど、ありがとう。
 無難すぎて話の進行には実にありがたい回答だったよ」
「それ、褒められてないよね俺」
「まあまあ。……ところで。
 この選択肢の中に、もう一匹の重要な駒であるきりんさんがいないのは、どういうことだろう?」

ぞうさんになら抱かれてもいい。そう思っていた時期がありました

「どういう…って、きりんさんは前後左右しか動けないからだろ?」
「つまり?」
「えーと、だから、きりんさんから見て敵のひよこさんは斜め前にいるから、一手で取れない」
「そうそう、その通り。
 きりんさんがひよこさんを取るためには、前に1回、横に1回、計2回の手番が必要なんだ。
 これではライオンさんのピンチに間に合わない」
「…あ、そうか。
 それに比べると、ぞうさんはライオンさんと同じ列にいながら、一回でライオンさんの前の列に出て、ひよこさんを止めることができるんだ」
「そういうこと。優秀だろ?
 補足すると、当たり前のことではあるんだけど、すべての駒の移動能力のうち、一番多いのが『前へ進む』なんだ。
 だから、駒の正面というのは、相手の駒が攻めてくる可能性が非常に高い、危険な場所なんだ」
「そうね」
「眼前に迫る敵。自分の前に味方はいない。万事休す!
 ……と、そこに、突然視界の外から現れ、自分の正面を塞ぐ巨大な影。
 『ここは俺に任せろ』
 と肩越しに言い、突進してくる敵を巨体で受け止めたのは、さっきまで自分の横を行軍していたはずのぞうさんだった。
 彼は敵味方入り乱れる戦場を、その太く大きな脚で難なく乗り越え、自分のために駆けつけてくれたのだった…みたいな」
「まあ、そう言われると頼もしい気がしてくる…か…?」
「わかってくれたか。
 つまり、あの公式の説明文は、本当はこう言いたかったんだ。

ぞうさんは、ナナメにすすめるから、たよりがいがあります。


「ああ、これならまだ意味は通るかな」
「だろ?
 頼り甲斐があるということを強調しようとするあたり、この文の書き手の方がぞうさんに惚れていたのは間違いない。
 しかし、書き手さんに求められていたのはあくまで駒の動きの説明だ。
 自分のぞうさんへの気持ちをなんとか抑えて、しかし抑えきれなくて、ああいう文章になってしまった。そう考えるべきだろう」
「……だいぶ妄想入ってないか」
「すまんすまんw
 ちょっと脱線したが、まとめると、ぞうさんが斜めに動くのは、本質的にはこの、『味方の前に強制的に割り込み、これを助ける』という彼の特殊能力〈カバーリング・インアウト〉の賜物というわけだ」
「そっかー。そういうことだったのかー。
 …………
 今なんつった?」

そして伝説っぽい何かへ。

「え?
 だから、特殊能力〈カバーリング・インアウト〉を持つ“動く要塞(ムービング・フォートレス)”こと、ぞうさんの話だが」
「カバー…ムービン……って、どこのライトノベルの表記だよ!
 まったくそういう流れじゃなかったろ今」
「そうかなあ?
 俺としてはぞうさんの真の姿を明らかにするために順を追って説明してきたつもりだが」
「いや段階が明らかに飛んだ。
 紙飛行機の原理を説明してもらっていると思っていたら前フリなしで星間連絡船のワープ航法について語られだした、くらい飛んだ」
「飛行機だけに話が『飛んだ』ってかwww」
「やかましいわ!
 こっちが真面目に聞いてたら、お前ってやつは…」
「落ち着けよ。
 そう言われたら俺こそ心外だ。
 いいか、ぞうさんだって、最初からこういう能力を持ってるわけじゃなかったんだ。
 過酷な戦いのなかで生き延びるためにもがいた結果、こうした異能を身に付けたんだと思うよ?」
「ねーよ!! どこのジャンプのバトル漫画だよ。
 ……まさかお前、他の駒にもそんな妄想を……」
「その通り!
 振り下ろされるは断罪の剣。
 “野生の十字架(ワイルドクロス)”きりんさん。
 未完の大器は荒ぶる一番槍。
 “幼き弾丸(チャイルドバレット)”ひよこさん。
 ついに現れた最強の鳥類。
 “遅れてきた英雄(ヒーロー・イズ・カミング)”にわとりさん。
 そして皆さんご存知、完全無欠の百獣の王。
 “サバンナの盟主(ロード・オブ・サバンナ)”ライオンさん!
「……………」
どうぶつしょうぎ本体では語られない、語りきれない、彼らの生き様を、これからお前と語り合っていこうと、俺は」
あ、お会計お願いします
「ちょっとおおおおおおお!!!」
「いやオチ作らないと」
「いらねえよ! なあ語ろうよ俺と」
「サッ(と、ぞうさんの駒を前にかざす)」
「あっ、ぞうさん
 くそう、さすがぞうさんだ。俺たちの間にさっと割って入って会話を止めやがった!」
「ああ、さすがだな。
 ということでお前はぞうさんを倒してから来い。
 わかってると思うが、ぞうさんは手ごわいぞ。じゃあな」
「ちくしょう、ぞうさんめ!
 だが俺とて“輝ける月夜の妄想の操り手(シャイニングムーンナイトイマジンライダー)”と呼ばれた男、ここで引くわけにはいかぬ!
 いくぞー!とりゃー!!」
「……。
 幸せそうだなあ、あいつ」


おわる。



今回の参考記事。

もはや参考どころのアレではありませんが…
どうぶつしょうぎofficial website http://joshi-shogi.com/doubutsushogi/