第67期名人戦第7局大盤解説会inマイナビルームに行ってきました

羽生名人、郷田九段、ともに三勝でついに最終局。
今回は毎日新聞社主催の大盤解説会に参加してきました。



本局の概要や棋譜などについてはこちらなどからどうぞ↓
http://www.meijinsen.jp/(中継サイト)
http://www.asahi.com/shougi/news/TKY200906240322.html(朝日)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090625k0000m040043000c.html(毎日)


なおエントリ中に登場する方の発言や行動の記述は主に俺のメモと記憶から再構成したものです。
あらかじめご了承ください。
内容について事実と異なる点があればご指摘ください。



会場のこととか

毎日新聞社大盤解説会は第6局までパレスサイドビル地下1階の「毎日ホール」が会場でしたが、本局は9階の毎日コミュニケーションズ社内にある「マイナビルーム」で開催されました。


今回の会場は前会場以上に快適でした。
横長の間取りに会議室や講義室同様に椅子と机を完備。椅子の間隔はゆったり広々。足回りも当然広々。机は後ろ何列か足りなかったようですが、椅子の間隔は同じく広めでした。
大盤は毎日解説会お得意のPC画面+プロジェクター。今回は横長の会場のためかプロジェクターが二台使われており、左右両端の参加者にも見やすくなっていました。
会場の外は休憩ルームになっていて、椅子机自販機完備。
休憩ルームには臨時の販売ブースが置かれ、マイコミの将棋関連書籍が販売されていました。今期名人戦を扱った「将棋世界」や「週刊将棋」のバックナンバーもありました。


会場に入ると入り口のスタッフからチラシ類を何枚かもらいます。

写真中、黄色い紙は2日目昼食休憩までの指し手とダイジェスト記事。その下の白い紙は「次の一手」解答用紙です。
写真にはありませんが、平成21年度の将棋年間予約の案内チラシと、マイナビ女子オープンの案内チラシももらいました。


人の入りは、当然といえば当然ですが大盛況でした。
俺はなんとか机側の席に座れましたが、あと5分も遅れていたら立ち見だったと思います。



開始5分前。千葉五段、本田女流二段登場。

解説者の千葉幸生五段と聞き手の本田小百合女流二段が会場に現れました。
お二人ともスタッフからピンマイク渡されてました。おおピンマイクだ(ちょっと感動)。
まずは進行役の方から諸注意。

進行「解説会開始にあたりまして、ご来場の皆様にお願いがございます。
 当会場は食べ物禁止となっております。すでにいいにおいがしておりますが…

前に参加したときもあった注意。
うふふ。もちろんそんなこともあろうかとわたくし、先に軽く食べてきましたの。電車の中で。固形栄養物的なものを。
…まあどうでもいいですね。次。

進行「またゴミはお持ち帰りください。ここのスタッフは掃除嫌いなもんで

いいなあこの進行の人。


会場変更についても説明がありました。
今回は解説会主催者である毎日新聞社の都合で毎日ホールが使えなくなったため、毎日コミュニケーションズ社の厚意でこの会場になったそうです。


解説者と聞き手が壇上に上がります。お二人の紹介のあと、

進行「駒およびPC操作は、いつもの田嶋尉三段です」

キャージョーサーン



オープニングトーク。ネット環境マジ便利。

壇上に上がるお二人。
千葉五段は佇まいが非常に落ち着いていて、誠実そうな方でした。うちの娘の夫になってもらいたいと思いました。*1
本田女流二段は明るい表情にしっかりとした口調の受け答えが好印象。うちの息子の妻になってもらいたいと思いました。*2

本田「これまでの流れを振り返って、先生、いかがでしたか?」
千葉「そうですね、せっかくですから、第1〜6局の盤面を見ながら話しましょう」

大盤のウィンドウ画面が切り替わり、名人戦中継サイトから過去の棋譜再現画面へ。

千葉「すぐに将棋を見たいという方もいらっしゃると思いますが、気分を盛り上げるためにまずは見ましょう(笑)」

ええ盛り上がります。
本田先生も「便利ですよねー」としきりに言ってましたが、ワンクリックで過去の対局を振り返ることが出来るのは、さすがネット環境を使ったこの解説会ならではですね。
とはいえもちろん全部の進行は見ていられないので、ばしっと投了図を出してさくっと振り返り。
よかった、陽動振り飛車の回とかじっくり解説されたら俺が泣いていた。なんとなく。



1日目。千葉先生は知っていた。

解説開始。
先手は羽生名人です。初手▲7六歩△8四歩。

本田「千葉先生の戦型予想は何にされてました?」
千葉「決着は矢倉でいくんじゃないかと思っていました。
 (9手目の▲4八銀まで進めて)ここまではオーソドックスな矢倉の進行でしたが、
 次の△52金右から異変でしたね。△3二銀(12手目)も普通は△4二銀ですね」
本田「これは左美濃ですか」
千葉「左美濃矢倉ですね。しかし先手の▲3六歩も意欲的な手です」


ここで本田先生から前局の話題。
居飛車党の郷田九段が意表を衝く陽動振り飛車を指して驚きましたね、という話から。

本田「千葉先生も振り飛車党でしたよね。ちなみに最近は…」
千葉「最近は…ええ、まあ、時代の流れには逆らえず(笑)」
会場「(笑)」

ここにもオールラウンダー化していく振り党が一人。


先手は▲7九角(17手目)〜▲6八玉〜▲7八玉(21手目)と早囲いに。

千葉「後手のスピーディな動きに負けない手です」

後からまた出てきますが、「スピーディ」は本局羽生名人のキーワードでした。


▲3五歩△同歩▲同角(25手目)、△7五歩▲同歩△同角(28手目)と互いに歩を交換して、この辺はどちらも引かないという印象。


▲4六歩(31手目)。

千葉「矢倉では珍しい手です」

解説をおおまかにまとめると…
通常、左をにらむことが多い角を右で使っていこうという手です。
しかしこの歩突きで3五の角がいったん左後方に引けなくなるため、相矢倉戦なら相手の金が上がって角をいじめる手があります。
しかし本局の後手は3二銀型なので角が追いづらい。
…というわけで、欲張っているがいい手だという評価。

千葉「ほめといてなんですが、実は自分も研究会で指したことがあるんですよ。
 その感想戦で『左美濃に対しては4筋を攻めるのが有力ではないか』ということを話した覚えがあります」


△7二飛(32手目)と飛車が7筋に寄ったところで一日目終了。



二日目その1。形勢はどっち?

手羽生名人の封じ手は▲7六歩(33手目)でした。

千葉「角の逃げ道を決めてしまおう、という手です」

後手は角を△5三に引き、受けに使うことに。
そこで▲4七銀。

千葉「これはいい感触です」
本田「後手も矢倉に組めますが…」
千葉「この場合はお互い先に攻撃陣を組みたいと思っています。
 この辺は相振りに近い感覚がありますね」

自分は相振りを勉強しているところなので「なるほど」と思ったお話でした。
振り飛車戦では、

  1. 相手の囲いに応じた攻撃態勢を相手の攻撃態勢よりも早く組み立てたい
  2. ↑とお互い思っているので自分の囲いはギリギリまで保留したい

という思惑と駆け引きがあります。
ちなみに、言われてみれば左右反転で相振りの盤面のようにも見える局面です。


▲3六銀(37手目)〜▲4八飛(39手目)。

千葉「先手は非常にいい形になりましたね。
 先ほども言いましたが、左美濃は4筋を攻めるのがいいんです。
 研究会のときの戦いも、おおむねこういう進行になりました」
本田「それを羽生先生が聞いて、こう指したと…」
千葉「いや、羽生さんは聞いてないと思いますが(笑)」

しかし研究で出てくる局面だということは重要だと思います。
この左美濃の構想を持ち込んだ郷田九段は、果たして研究でこの局面を想定していたのか、どうか。


その後角交換〜銀交換が入り、△4四金(50手目)と金が上ずったところに▲5三銀(51手目)。

千葉「ここはいろいろ攻め筋がありましたねえ」
本田「どれが有力ですか?」
千葉「▲5三銀のほかに▲5三角という手もありました」

金取りを受けて△4三銀打(52手目)。

千葉「うーん、つらいつらい。
 すごい利かされです。今後▲6一角と打つ筋が常にあるんで…」

▲45桂〜▲3三歩などの攻め筋もあり、後手は受け切れないだろうという解説。

千葉「ですから、後手は攻め合いに出るしかないと思います」


そして▲4五桂(53手目)と跳ねたところに△1五角(54手目)!

千葉「単純な飛車取りですが、先手もつらいですよ」

結局▲2六角と合わされて、△同角▲同歩に今度は△3七角で飛香両取り。
先手は▲3八飛。角の利きから逃げつつ、飛車のラインを3筋に入れます。
そこで後手が△1九角成(60手目)と香を取ったところで最新棋譜に追いつきました。

千葉「そろそろこの辺で次の一手をしたいんですが、自分も把握できてません(笑)」
本田「形勢はどうでしょう?」
千葉「互角に近いと思います。
 ただ△1九角成はこのとき馬が受けにも攻めにも効いてないのが怖いですね」

この後、もし飛車を取り合ったらどうなるの?という話に。
先手は矢倉の裾(玉の横の守り)が開いてるので、つねに王手の筋があって現状ではよくない。どころか、王手なんとか取りになる筋まである。

本田「中継サイトではどうなってるでしょうか…と」
千葉「(コメント欄を読む)おっと、中継の控え室は後手持ちですね」


で、次の一手出題。

千葉「まず第一感は『▲33歩』です。
 あと『▲4四銀成』。→△同銀▲3三歩を狙います。
 (ちょっと画面を見て)…あれ、本当にどうするのかなこれ

えっ。

本田「『▲6一角』もどうでしょう」
千葉「ありますよ。
 あとは『▲4二歩』ですか。△同銀なら▲同銀成」

思いっきり4四銀成が本命くさいです…ね…


ここで千葉先生から入り口出たとこでマイコミの書籍販売してるのでよかったら見て買ってねと宣伝。
本田先生からはマイナビ女子オープン予選の宣伝。

本田「私も出ますので(笑)よろしくお願いします」
会場「(拍手)」

本田先生がんばってください。



休憩タイム。マイコミ(とカンロ株式会社)マジヤベエ

最初に書いたとおり、この会場は毎日新聞社がマイコミ社の厚意で借りた…ということでした。
ただマイコミ社の厚意は会場貸しにとどまりませんでした。
これ。


写真撮る頃にはすっかりなくなっていましたが、相当数の差し入れがありました。
うわー。
飴とグミごときで俺を懐柔しようったってそうはいくよ。


…差し入れといえば、近くの席のおじいさんが自分の帽子の中とズボンの両ポケットにこの飴の袋(一個一個ではなく、袋ごと)を大量に仕込んでいるのを見てしまいました。泣けた。
わかりやすく挙動不審なのがまた泣けた。
いいよ好きなだけ持っていきなよおじいさん!!と提供者本人でもないのに高ぶる俺。実家のじいさんくらいの歳なんだよなあ…


だがグミを一人で3パック持ってった俺の後ろの会社帰り風のおっさん、てめーはダメだ。俺の上司くらいの歳だったからダメだ。
でも「俺にもグミくれよ!」とは言えませんでした。おっさんの目が血走っていたから。
つまり俺がヘタレか。そうか。


…と、差し入れから垣間見る人生の悲喜こもごもを勝手に堪能したところで休憩終了。
とりあえず俺、当分おやつはカンロのお菓子にするわ…




二日目その2。急転直下。

次の一手の回答。
▲3三歩88名、▲4二歩52名、▲4四銀成49名の順で人気がありましたが、正解は▲4四銀成。
やはり千葉先生の困り方は正しかった、ということでした。


本譜。
▲4四銀成△同銀に、次の一手選択肢にもあった▲3三歩(63手目)。
△同桂▲同桂△同銀としたときに、▲3四歩(67手目)が痛い。

千葉「これを取れないようではつらいです」

取らない変化を検討すると、3四の歩が拠点となりいつまでも攻めが続きました。

千葉「ですから、受けるときは、拠点の歩をなくして受けるようにするといいです」

というわけで△3四同銀。
▲同飛と銀をまるまる取られますが、△4三銀打で飛車を追い返します。


3四の地点を巡る応酬がしばらく続きます。
△4二桂(76手目)にあたっている飛車が逃げず先手が攻めを続けると、入手した駒でかえって後手陣が硬くなっていきます。
では単純な飛車の取り合いは? この場合は先手がやや良さそう。

千葉「…困った時は中継サイトのコメント欄を読みましょう(笑)」

ネットは便利だなあ。


本譜は▲3五飛△3四歩▲4五飛(79手目)と進みました。
形勢判断。

千葉「先手を持ちたいです。
 が、一旦受け止めてしまえば後手にも楽しみがあります。55対45くらいでしょうか。
 しかし受け止められるんでしょうか?まずそれが大変な気がします」

そこで本田先生から質問。

本田「△4三香という手はありますか?」

その手には▲6六角があり、△5五歩▲同飛とさばかれて先手楽勝、と千葉先生。
△5二金と出てしまうと4一の地点が危険になりますが、「△4一歩とは死んでも打てない(by千葉)」。

会場「その△5五歩のとこ、△5五桂は?」
千葉「手筋の受けですが、▲同歩△同歩▲5四歩〜5三歩成くらいで」
会場「△27馬は?」
千葉「飛車を追う手ですか。悩ましい手ですが…」

矢継ぎ早に会場のお客さんから指し手の声がかかります。

千葉「…次々と声援が(笑)」

ずっとお客さんのターン!


ちなみに、中継サイトのコメント欄では渡辺竜王が△2七馬を推奨していました。


そうこうしているうちに指し手が更新されました。
△4三歩(80手目)!

本田「えっ!?」
千葉「▲6一角はどうするの!?」

会場からも驚きの声があがります。

千葉「しかし簡単に▲6一角でよくなるようなら、△4三歩はないはずです…」

会場から▲6一角にはここで△2七馬は?と質問。

千葉「▲4三飛なら△同銀▲同角成(詰めろ)ですが…」
本田「△4八飛の王手馬取りでしめしめ、ですね」

しかしもちろんそんな筋にいくわけもなく。

千葉「現状を見ましょう」

中継サイトに切り替わると…
やっぱり▲6一角(81手目)でした。
「おー」と声の上がる会場。

千葉「郷田九段を応援している方には申し訳ありませんが、もう粘る手がありません」

そうなんだろうなあ…と思っていたら棋譜更新。

本田「えっ、投了?
会場「えーーーーーーーーっ」


81手で郷田九段投了。羽生名人の防衛が決まりました。
会場からは対局者と解説者に拍手が贈られました。


しかし早すぎる終局に会場も解説者も表情はいまいち。
時計を見たら午後7時半を過ぎたばかりです。



ボーナストラック。ポイントで振り返る第7局。

千葉先生はまず軽く本局の感想を言いましたが、

千葉「せっかくですから途中からいらした方のために、軽く初手から振り返ってみましょう」
本田「終局時間を見込んで9時くらいから予定を入れてしまった方もいたでしょうし、よかったらご覧になっていってください」

会場から拍手。俺も拍手。


△3二銀。

千葉「急戦と持久戦の間くらいの手ですね。
 そこで羽生さんも速度を合わせてきました」

▲4六歩。

本田「機敏な一手でしたね」
千葉「この手ですでに後手作戦失敗だった可能性があります。
 郷田さんはここで長考していましたから、自分でも失敗したと思っていたかもしれません」

△2二玉。

千葉「まさかこの時点で80手で終わるとは思っていませんでした」
本田「私もです」

俺もです。
▲3五銀。

千葉「結果的にゼロ手で指しましたね。本局の羽生さんはスピード感がありましたね」

▲4五桂。

千葉「羽生さんにはダメな手が一手もありませんでした」

△1九角成。

会場「△1九角成じゃなくて△3六歩だったらどうですか」
千葉「そのほうがまだじっくりしたかもしれませんね」
本田「でも郷田先生は△1九角と堂々といきましたよね」
千葉「『攻めて来い』ということだったんですね」

最後。

千葉「最後は▲6八飛と引かせれば、それならまだしばらく指せたはずです。
 しかし郷田さんの美学でそれはできなかったんでしょう」


全体を通して

本田「羽生名人の切れ味を感じました」
千葉「シンプルに、シンプルに攻めましたね。スピーディな将棋でした」


解説終了。
改めて解説者に拍手が贈られました。

進行「本日はお忙しい中ご来場いただき真にありがとうございました。
 なお、ゴミはお持ち帰りください。わたくしどもからのささやかなお土産ですので」

最後まですごい締めだ…




ということで終わりました。

切り分けて感想を書きます。


快適な会場に落ち着いた解説は文句なし。
じっくり解説を見れる環境だと、ネタトークなしでもまるで気になりませんね(もちろんあったらあったで嬉しい派です)。
解説者の皆さん、関係者の皆さん、おつかれさまでした。ありがとうございました。


対局自体は、内容が挑戦者にとってひたすらつらいものだったこと、そのうえで早い終局だったことが残念。個人的には無念。
羽生名人強し。おそるべし。



おまけ

解説会終了直後の俺は「無念、郷田九段…」とやや失意の中にありました。
羽生名人も郷田九段も好きな棋士ですが、この幕切れは…という思いが強かったように思います。
しかしずっと落ち込んでもいられないので、気を取り直して夕食に。
早い時間で終わったので、前回の解説会の帰りに行って「本日は終わりました」の看板に涙を飲んだラーメン二郎神田神保町店に向かいました。
そうだよ、早く終わってしまったのは残念だけれど、この時間だからこそ、こうして行きたい店に行けるんじゃないか。
何事もよいこととわるいことの両方があるもんだよ。

あっそうかー今日お休みだったんだー


あーそうかー




おしまい。*3



*1:娘いませんが。

*2:息子もいませんが。

*3:その後適当なインドカレー屋に行きました