第67期名人戦第2局大盤解説会in東京将棋会館に行ってきました:本編

会場に着くまでのエントリはこちら


東京将棋会館で行われた将棋の大盤解説会に参加してきました。
こういう場に参加するのは初めてです。おのぼりさんもいいところです。


以下、このエントリに登場する方の発言内容についてはすべて俺の記憶によるものです。
事実と異なる点があればご指摘ください。


将棋会館に着くまで

鳩森八幡神社を出て少し歩くと、将棋会館がさっくり見えてきました。


事前に写真で見た時よりさらに小さい印象。

よく少年漫画であるような、「ある趣味における総本山的施設はいつもハイテク満載の超巨大ビル」という幻想はやっぱり幻想でした。


入り口。

内部もちょこちょこ撮影したんですが、ブログ掲載がいいのかどうかわからないので、念のため自粛します(問い合わせるほどのことでもないので)。


とりあえず2階の解説会場入り口にあったこれだけ載せますね。

解説が藤井九段。このためだけに千駄ヶ谷に来たといっても過言ではありません。ていうかそのために来ました。マジで。


解説会はとにかく面白かったの一言です。
藤井先生のトークは解説・ネタともに最高ですね。井道女流初段のテンポのよい掛け合いがまた面白さを倍増させていました。


以下、解説会の内容。
うろ覚え満載でお送りします。



藤井九段、登場。

俺の会場入りは開場の午後5時30分ちょうどでした。
受付でお金を払っていると聞き役の井道女流初段が登場、来場者に「ありがとうございます」と声をかけてました。かわいいです。


さっさと前のほうの列に席をとってしばらくしたら、後ろの入り口付近で聞きなれた声が。
もしやと振り向いたら藤井九段でしたあああああああああああああああああああああ普通に居るうううううなんか打ち合わせしてるううううううううううううううう


まあ落ち着け俺。


午後6時、解説会開始。壇上に改めて解説の藤井猛九段と聞き役の井道千尋女流初段が登場。
席が前のほうなのでお二人がすごく近くで見れます。それだけでまた舞い上がる俺です。


…ところでこの会場、けっこう狭いのですよね(定員70名できちんと会場一杯)。天井も低いとです。

こんな感じです。
壇に登るとお二人の頭が天井に近い近い。



序盤。突如藤井九段による矢倉講座開始の巻。

(初手、羽生名人の7六歩に対して、郷田九段は8四歩)

藤井「これはねー、気合の入った手です。郷田九段はよくやるんですよ」
井道「郷田先生はいつもこの手を指されるんですか?」
藤井「3四歩と指せば、後手が作戦を選べるんです。でも8四歩と指すと、作戦の選択権は先手にあります。後手は先手の作戦すべてに対応しなきゃならない。郷田九段はそれをやると言ってるんです」


(後手も角道を開ける)

藤井「この段階ではまだ作戦はわかりません。後手はここから角道を止めて飛車を振るかもしれないんです。(飛車の駒を持って横にすべらせる仕草)井道さんだったら?」
井道「ここですね(3筋を指す)」
藤井「三間飛車ですね」
井道「藤井先生は振り飛車党ですよね」
藤井「ええ、根っからの振り飛車党でね」
井道「でも最近は矢倉も指されてるそうで…」
藤井「いや、矢倉も指す振り飛車党です(笑)」
井道「どうして矢倉も指されるようになったんですか?」
藤井「いや、(振り飛車に)飽きちゃったっていうか、指してみたくなったんですよ」
井道「そうなんですかー」

すっかり定番ネタですね。


(矢倉模様に。先手の5六歩に対して)

藤井「この手にもね、意味があるんです。ちょっと解説しましょうか」
井道「はい、ぜひお願いします」
藤井「後手が変な手を指して来たら、…まあ普通ないんですけど、もし指してきたら、一気にいくぞという手なんです」
井道「変な手ってなんですか?」
藤井「たとえば△3二金です。
ここでは重要な手ではありませんよね。そうすると、先手は中飛車に振ることができます。
後手は3二金が邪魔になって玉が囲いづらいので、このまま戦いが起こると不利になります」

なるほどです。


(引き続き矢倉の駒組み。先手の7八金に対して)

藤井「これねー…僕は好きじゃないんですよ。もちろんいい手なんですけどね。解説しましょうか」
井道「お願いします」

ここから、いわゆる早囲いの解説がはじまりました。
以下、本譜を離れて矢倉の駒組みの狙いや変化の解説が続きました。
非常にわかりやすい解説に、会場の参加者からは「おー」「なるほど」といった声が続出。俺もつい声があがりました。

藤井「なんか大盤解説っていうよりは将棋講座みたいになっちゃいましたね(笑)」
井道「いえ、すごく勉強になりました!」

本当に勉強になりました。



中盤。棋士のモノマネ絶好調の藤井先生と、神タイミングで登場の三浦八段。

(井道女流初段から郷田九段の対局中のクセを聞かれて)

藤井「こちらが指すと『はぁ〜っ』って頭に手を当てながらため息をつくんですよ。参ったなあ、って感じで(本当に額に手を当てて、大げさにモノマネをしながら)」
会場「(笑)」
井道「よくやられるんですか?」
藤井「よくやるんです。でも(郷田九段が)勝っちゃうんですよ(笑)」
井道「あと、駒台をよく触られているそうで」
藤井「そうなんですよ。しょっちゅう触ってるんです。あまり触るから『あれ?打つのかな?』と思うと、そうでもない(笑)」


(同様に羽生名人のクセを聞かれて)

藤井「微妙な手を指すと、盤を覗き込むんですよ。『んん?』って感じで(またモノマネ付で)」
会場「(笑)」
井道「盤上にかぶっちゃいません?」
藤井「かぶっちゃいますよ。身を乗り出して『んん?』って(腕組みして覗き込むモノマネ)。こっちは、羽生さんがそういう反応するんだから『やばいのかな?』って思いますよ」

井道「ちなみに藤井先生はクセはありますか?」
藤井「私はないですよ。ええ。いつも背筋をびしっとして対局に臨んでます(なぜか笑う)」

井道「他の棋士の方でクセって何かありますか?」
藤井「そうですね、…三浦八段。
彼は研究熱心なことで有名なんですが、対局でね、指し手が彼の研究している筋にハマると、うるさいんですよ。
対局中に『よし!…よし!』って何度も言うんです(天を見上げながら頷くモノマネ)」
井道「声に出されるんですか?」
藤井「思いっきり言いますよ。
去年の順位戦で彼と戦った時、展開がどうも彼の研究筋だったらしくて、どうしようかなと思ったんです。でもこちらも指したい戦法があったし、いいやと思って乗りました。
そしたら指しながら『よしっ、よしっ!』って(笑)。
もう、こっちはイライラしちゃってね。結局その対局は負けました」
井道・会場「(爆笑)」

藤井「そうそう、その時の対局室では他の対局もやってて、私の隣には渡辺竜王と…」
井道「(会場の後ろに何かを発見してはっとする)」
藤井「(同じくはっとする)」

振り向くと、なんと会場の後方入り口に、その三浦八段ご本人がいらっしゃってました。
会場大爆笑。

藤井「…えー、ここで羽生さんの指し手ですが…」

何事もなかったかのように大盤解説に戻る藤井先生。
笑いをこらえる参加者&井道先生。
事態がわからずきょとんとする三浦先生。
最高に面白い瞬間でした。


(三浦八段が去ってから)

藤井「(会場の後方を何度も見直して)もう行きましたね。
いやあ、本人が来るとは思いませんでした…大丈夫ですか?」
井道「(ずっとかがみこんで)先生、私腹筋が痛いです」

ですよねー。

藤井「…で、さっきの話の続きですが。
私の隣には渡辺竜王と行方八段が順位戦を戦ってたんです。渡辺竜王も昇級のための大事な一戦で。
私と渡辺さんが隣同士、行方さんは竜王の向かい側でした。
で、渡辺さんは三浦さんの斜め向かいなんですよ。なので私と渡辺竜王は三浦八段が見えて、行方八段には見えないと。
そして『よしっ、よしっ』ですよ。
それを見ていた私と渡辺竜王は負けて、見えなかった行方八段は勝ちました」
会場「(爆笑)」


もちろん真面目な解説もちゃんとありますよ。動画をご覧ください。
東京・第2局大盤
東京・第2局大盤


次の1手問題で休憩。
休み明けに正解者の発表があり、70名中25名が正解。抽選で8名の方に商品が当たりました。
たしか羽生・郷田揮毫の扇子と藤井先生の相振り指しこな本シリーズでした。指しこな本を選んだ方は帰りにサインをいただいてました。いいなあ。
ちなみに自分は外れました。正解▲5五歩に対して自分の回答は▲5五桂。後手の角道を止めておく考え自体は間違っていませんでしたが…まあ低級の実力相応の結果でした。

藤井「ここで角の利きを遮断しておくのが大事なんですよね。
角の利きを社団法人」

また藤井語録に新たな一ページが…なのかコレ。



中盤〜終盤。「わかりません」連発の藤井先生。あと藤井先生の自虐ネタはガチ。

とにかく形勢不明の終盤戦です。
解説の藤井九段も「郷田九段がいい」「羽生名人が優勢」ところころ言うことが変わり、そのたびに「さっき私も○○のほうがいいと言ってたんですけどねえ」と自虐せざるを得ない展開。


(羽生名人の強さについて)

藤井「羽生さんの強さには様々なものがあります。たしかに劣勢を粘ってひっくり返す強さもありますし、優勢を勝ちきる強さもあります。
しかし羽生さんの本当の強さは、お互いに優劣不明の場面を、がっと自分の側に引き寄せて勝つ力です」


(藤井九段と郷田九段との対戦成績について)

藤井「確か郷田九段と私は、ダブルスコアで私のほうが負けてるんですよ」
井道「相性なんでしょうか」
藤井「いえ、実力だとおもいます(即答)」

なんて正直な…でもそこが好きです。


(残り時間、羽生約40分、郷田約18分と確認して)

藤井「9時間の持ち時間で18分ていうのは、もう無いに等しいですよ。
だいたい将棋は変なゲームなんです。展開が進むほど考えることが増えるのに、時間は少なくなっていくんです」
井道「じゃあ、いっそのこと序盤に秒読みをするとか(笑)」
藤井「それもいいですね(笑)」


(後手37歩を見て)

藤井「これは…やっちゃいましたか?」
井道「手順に▲2八飛と寄られそうですが…(※前の解説でもともと3八の飛車が2八に寄る手も有力だという話が出ていた)」
藤井「一目、悪手です。郷田さんも時間秒読みに追われて、ついやってしまったのかもしれません。
今回の立会人は加藤先生ですが、検討で『うひょ〜』って言ってますよ」

うひょ〜


(優勢な場面の戦い方について)

藤井「プロ棋士っていうのは、優勢な場面を勝ちきる力はだいたいみんなあるんです。
私はどうもそういう力が足りないみたいなんですが(笑)」
井道「そうなんですか(笑)」

ファンタジスタですね、わかります。


この辺りの動画が公開されてます。
名人戦第2局 藤井九段解説
名人戦第2局 藤井九段解説


(盤上で先手後手の詰みを探しながら)

藤井「…これでも詰みますね。
しかし、将棋というのはこういう風にいっぱい詰みがあるほうがやっかいなんですよねえ」
井道「というのは?」
藤井「私の場合だと、いっぱい詰みがあるとどれでいっていいかわかんなくなって、詰まない手を指してしまうということがあるんです(笑)」
井道「あったんですか(笑)」
藤井「ある対局でね、『これはどうやっても詰むだろう』って場面で、自分は秒読みだったんですよ。
それであせってしまって、唯一詰まない手を…」
井道「ええっ!? それ、どうやって立て直したんですか?」
藤井「いやもう無理ですよ。指した瞬間に呆然となってしまいました」
井道「そうなんですか…」
藤井「将棋は難しい。いや難しい」


最終盤。
会場の参加者の方も加わりながら、みんなで後手の詰みを探しましたが…

藤井「一目、これだけ駒があれば詰みそうなもんなんですが、どうやら詰みがなさそうです。
となると、あの私が最初悪手と言った3七歩が、実は玉の脱出ルートに貢献していたわけです。
郷田九段はそこまで構想していたと。さすが名人戦ですね」


羽生名人の投了が告げられると会場に「おおおー」と声が。
対局者と解説者に惜しみない拍手が贈られて、解説会は終了しました。


約五時間ずっと、面白くて、ためになり、興奮できる、非常に密度の高い解説会でした。
楽しかったです。
書いてて当時の楽しさが思い出され、また行きたくなりました。


書き漏らしたネタはたくさんありますが、ひとまずおしまいにします。
満足満足。