上質を知らない男。

どうせ味などわかるまいと自分の舌を甘く見て、これまで自宅で食べる餃子といえば18個入り105円のスーパー最安値のものを買っていた。
つぶは小さいし中身はバサバサだしひどいんだが、まあ値段相応、家で毎回食うならこんなもんでいいさ、美味しいものはお店でそれなりのお金出して食べればよいのさ…と思っていた。


久しぶりに別のスーパーに寄ったとき、ふと餃子が食べたくなり、加工食品のコーナーに行ったら一番安いもので16個入り168円だった。
何かラベルに「黒豚」とかなんとか名前が入っている。「こだわりの○○」などと同じ仲間のにおいがする。
まあそういう胡散臭い部分をツッコミはじめるとスーパーに並ぶ商品の7割くらいはそんなもんなので(偏見)、とりあえず俺は餃子が食いたいのだ、と目をつぶって買う。


さっそく夕食のときに焼く。
18個入り105円から地味にレベルアップした今回の餃子だが、一個当たりの単価で見るとそれほど何がどうというわけでもない。うっかりするとこの差額はこのラベルのデザイン料なんじゃねえかとか邪推もできる。ま、デパ地下惣菜コーナーの人気店とかで買ったわけでもないし別にいいんですけどね何これ綺麗に焼けるし皮からっと揚がるし肉ちゃんと詰まってるしジューシーだしてか旨いし。


ショックだった。なんか…こう…ちゃんと違うんだ。
もういろいろと、ごめんなさい、と思った。
特に自分の舌に対してごめんなさい、と思った。お前ちゃんと違いがわかるんだなあ。


この調子でいくと、いずれスーパーで買う餃子の単価がじわじわと上がっていき、やがて既製品で我慢できなくなって手作りにチャレンジしたり、全国の餃子の名店めぐりをはじめてみたり、むしろ自分が餃子のお店で修行をはじめてみたり、挙句自分で餃子のお店を出してしまいそうで怖いのだけれど、さしあたっては現状で満足した。